昆虫は、数億年前から存在し、地球環境の変化に適合しながら地球上に広がりました。現在では約百万種類の昆虫が確認されているといいます。今もその種類は増え続け、計り知れない数に及ぶといわれています。
いわば生命力のエリートです。
昆虫はいつの時代も子供たちにとって興味の対象でしたが、このところは地球温暖化をはじめとして環境問題の意識から、昆虫への関心は世代を超えたものになりました。人間の衣食住や化学、建築など、虫から学んできたものは計り知れません。多岐にわたる昆虫からの恩恵の中でここでは昆虫をテーマにした美術作品を展示している美術館と作品を紹介します。
日本人と昆虫
日本人は、四季のある豊かな自然に恵まれたことから植物や虫を愛で、絵に描き、歌に詠み、装飾に取り入れてきました。葛飾北斎には動物がおどけたり、人間を感じさせる虫や鳥が登場します。自然に表情を与える独特の手法はホクサイスケッチと呼ばれ印象派の画家たちに影響を与えることになります。
19世紀後半にジャポニスムと呼ばれ、自然に対して豊かな表現を用いた日本美術がヨーロッパで流行しましたが、その影響を受けた一人であるルネ・ラリックは、自然や昆虫の作品で広く知られています。ラリックがその想像の源とした中には、江戸時代の名工による櫛やかんざしがあった可能性は極めて高いといわれています。自然の美しさを封じ込めた小さな櫛やかんざしには昆虫のモチーフが多く見受けられます。秋は鈴虫や虫かごがあしらわれ、春には蝶々などが。蜻蛉(とんぼ)は前にしか飛ばないことから、勝ち虫とよばれ武将の持ち物に使われています。↓
葛飾北斎「略図早指南」
■澤乃井櫛かんざし美術館より
世界屈指といわれる櫛かんざしのコレクションは数千点に及びます。光琳、羊游斎、梶川など、名工の手による櫛かんざしには昆虫のデザインも多く見受けられます。
蜻蛉芒文様蒔絵螺鈿櫛(江戸時代)古満巨柳作 澤乃井櫛かんざし美術館蔵
夕顔蝶文様象牙櫛 笄(江戸時代) 澤乃井櫛かんざし美術館蔵
蜻蛉秋草文様蒔絵螺鈿象牙二枚櫛 芝山作 江戸時代 澤乃井櫛かんざし美術館蔵
■箱根ラリック美術館より
アール・ヌーボー、アール・デコのジュエリーとガラス工芸家ルネ・ラリックの多彩な表現による作品には、昆虫が登場します。
図鑑のような正確な描写に、遊び心のあるお洒落なデザインを巧妙に取り入れた作品は、時代を経て多くの人を魅了しています。ラリック美術館では、ラリックの昆虫をモチーフとした貴重な作品を見ることができます。
髪飾り「二頭のトンボ」ルネ・ラリック (1903−1905年頃)
箱根ラリック美術館蔵
カーマスコット「トンボ」ルネ・ラリック(1928年)
箱根ラリック美術館蔵
花器「スカラベ」ルネ・ラリック(1923年)
箱根ラリック美術館蔵
2021年昆虫と日本美術.ヒーローと昆虫 二つの展覧会
■京都細見美術館「虫めづる日本の美」開催中
琳派や古美術・日本美術などのコレクションで有名な細見美術館が、虫をテーマにユニークな展覧会を開催。解剖学者で昆虫の研究者で知られる養老孟司氏が監修し、細見美術館ならではの若冲など日本美術の展示に加え、標本・現代美術の作品、さらにデジタルやテクノロジーの作品が、虫をテーマに響き合うワクワクの企画展です。
https://www.artagenda.jp/exhibition/detail/6352
■国立新美術館「庵野秀明展」
2023年に庵野秀明氏による「シン仮面ライダー」が上映予定です。映画公開に先駆けて
庵野秀明氏の足跡をたどる展覧会が2021年12月19日まで開催されていました。
新聞に掲載されたキヤッチコピーは、「子供の頃から続く大人の夢を」
これまでにお会いした世界的な昆虫標本のコレクターや昆虫の研究者、昆虫好きな美術作家や科学者に共通する素晴らしい言葉だと感じました。
https://www.annohideakiten.jp/
仮面ライダーのモデルはバッタ
作者の石ノ森章太郎氏は「環境破壊から自然を守る」をコンセプトに、バッタをモチーフにしました。「バッタは自然の象徴。バッタの能力を持った主人公が風をエネルギーにして自然破壊に立ち向かう」というのが理由です。