母と私の介護探検記、第2弾。「食べる!」
食べることがこんなに大変とは。こんなに大事とは・・・・・
大腿部の手術大成功!大正生まれは強し。
手術は大成功。
医者も驚くほどの立派な骨で、ビスもきちんと打ち込めた。
96歳なのに全身麻酔に耐えただけでもすごい、と医師が感心する。
手術の翌日から早速リハビリ開始。
★★★
手術後10日間入院。4日目にやっとリモート面会。
コロナのせいで、直接会えない。
病院の別室からオンラインで、病室の母の顔を見ながらお話。
かなりハイテンション。
入院のせいか・・? 常ならぬ環境に置かれているせいか・・・?
とにかく、母が生きていてくれることが嬉しい。
リハビリが・・・始まらない。。。。
市内のリハビリ専門病院に転院。いよいよリハビリが始まる!
はずだった・・・・
転院してリハビリ。新しい探検だぁ、と意気込んでいたが、転院日の母を見て愕然とする。
ストレッチャーに寝たまま。
顔に正気がない。目に力がない。
支えていないと後ろに倒れてしまう。座ることができない。
どうなっているの?もうダメなの?
★★★
「死んでしまいたい」「生きていたくない」
母から聞く、何とも情けない言葉。いつも毅然としている母の姿ではない。
「憎まれっ子、世にはばかる。だからお母さんは絶対に死なない」・・・・
母の耳元で囁いてみる。
いつもなら、ニコッとしてキュートに微笑む母の姿はない。
しかし、問題はそれだけではなかった。・・・・
★★★
生きる気力がないのか、病院の食事を食べないので、点滴の日々となる。
病院の食事が美味しくないとは、よく聞くこと。
丁寧に調理したものを美味しく食べていた母にとって、病院の食事が美味しいわけはない!
しかし! 食べなくてはリハビリもできない。何も解決しない。
母に手紙を書く。食べて〜〜〜、と激励する。面会のたびに、耳元で「食べて」と伝える。
しかし・・・・食・べ・な・い。
だから・・・・リハビリもできない!
「高齢者の場合、転んだら寝たきりになってしまうから気をつけて」と言った友人の言葉を思い出す。
友人のお母様もそのまま寝たきりになり亡くなってしまった。。。
令和元年国民生活基礎調査(厚生労働省):
高齢者の介護が必要となった主な原因は、認知症、脳血管疾患(脳卒中)、高齢による衰弱に続いて、「骨折・転倒」が4番目、12.5%を占めています。
令和2年人口動態統計(厚生労働省):
高齢者(65歳以上)の転倒・転落・墜落による死亡者数は8,851人で、交通事故による死亡者(2,199人)の約4倍です。
鼻から食事??
母の皮膚が弱いため、これ以上点滴を続けることが困難に。
鼻にチューブを入れて、胃に直接栄養を注入する、と告げられる。
やめてください!・・・と、私は強く拒否。
延命治療はしなくて良いと言ったけれど、心臓マッサージのような無意味な延命治療を断ったのであって、延命してほしくないわけではない!
何としても生きて、元気になって退院してほしい。
★★★
「食べる」ことへの挑戦がはじまる
私の挑戦がはじまった。母の回復へ向けた探検だ!
母が好きな食べ物を届けることを、医師に交渉。衛生管理・密閉された食品なら差し入れOKと了解を勝ち取った。
母がこれなら口に入れそう、という食品を探す。柔らかく消化が良く、美味しいもの。
しかし、これがなかなか手に入らない!
病人用のレトルト食品を試してみたところ、決しておいしいとは言えず、病院の食事同様。
となると・・・母は食べない。
そこで、スープ専門店のレトルトスープ、母の好きな煮豆、牛肉店のそぼろ肉のふりかけ、フルーツの缶詰等、とにかく、いろいろ試してみる。友人たちも協力してくれる。
食べた!!!
コーンスープ、ミネストローネはOK、ビーフシチューはアウト、といった具合に、一つ一つ「介護食探検」。
そして、思い出したのだ。食卓に時々出していた煮豆。
母が食べ始めた。煮豆は無敵だ!!
「食べる」ということがいかに大事か、母のことを通して改めて知った。
食べることは喉を鍛えることでもある。
口から食べる、という行為自体が、人間に力を与えるのだ。
内臓も働く。食べ物から水分も補給できる。
咀嚼する。飲み込む。美味しいと感じる。
「食べる」という肉体的行為が、心にも脳にも刺激を与えているのだ。
食べると力が出る。食べないと力が出ない。
そんな当たり前のことを、言葉ではなく、実感できた気がする。
母の体験なので「実感」というのは変だが・・・やはり、「実感」が一番ぴったりする言葉。
食べる量が増えるに従って、どんどん元気になってきた。
★★★
こうして、母はいつもの母に近づき、リハビリができるようになった。
眼に力が宿りはじめ、やせ細っていた首筋が少しだけ太くなってきた。
下を向いて外界を遮断していた母が言葉を発し、面会に行く私の心配をし始めた。
「寒いから気をつけてお帰りなさい。」「ありがとう」
別れるときは手を振ってくれるまでに。
「食べる」ということの大切さを、私が思い知った顛末をちょっとご紹介したけれど、
母の介護生活は、今も、そしてこれからも続いていく。
その中でまた新しい発見や気づきがあると思う。
そんなときは、また皆さんにこんな風にお伝えできたらと思っています。
では、今回はこの辺で・・・。